大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和52年(く)48号 決定

少年 D・T(昭三六・七・五生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告申立の理由は、法定代理人(父)D・O及び附添人弁護士○瀬○猛共同作成の抗告申立書記載のとおりであり、要するに、少年はてんかん症患者であり、正しい治療を行い健全な少年に育成するためには専門医による日常生活指導、薬物療法、心理学的治療などが必要不可欠であるにもかかわらず、少年を専門医が不在で日常生活について専門的指導を行うに適していない初等少年院に送致した原決定は著しく不当であり、少年を医療少年院に送致するか親元において治療を継続させるのが相当であるというのである。

よつて、少年保護事件記録及び少年調査記録を検討するに、少年は昭和五二年三月一七日保護観察に付された以後も更生の意欲なく、就職しないで不良交友、外泊など放縦な生活をおくりながら、前件と同様な自動車盗、車上狙いの本件各非行を繰り返したものであり、その他被告人の性格傾向、保護者に保護能力が認められないことなど諸般の事情に徴すると、この際少年を少年院に収容し規律ある生活を通じて性格等の矯正をはかることが少年の更生にとつて妥当な措置であると考えられ、また送致すべき少年院については、たしかに少年はてんかんにより投薬を受けてはいるけれども、記録に現われた現在までの症状及び医師の診断によれば、それは軽度のものであり(本年一月の発作は生活の乱れと薬の服用を怠つたためと思われる)、服薬の継続と規則正しい生活により軽快することも十分可能であると考えられ、かつ、場合によつては少年院法一〇条による移送の途もひらかれているのであるから、現段階においては少年を医療少年院に収容し、常時専門医による医療措置を施すまでの必要はないものと認められる。

そうすると、少年を初等少年院に送致した原決定が著しく不当であるとは認められず、本件抗告は理由がないから、少年法三三条一項後段、少年審判規則五〇条により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 滝川春雄 裁判官 吉川寛吾 清田賢)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例